犬の糖尿病 治療や予防方法・おすすめの食事

更新日:2022/02/13

犬の糖尿病 治療や予防方法・おすすめの食事を獣医師がご紹介

人間だけでなく、ワンちゃんでも糖尿病を患う子が増えてきています。
日常生活の中でもなかなか気づくのが難しく、気付いた時には進行してしまっていることが多い糖尿病。
白内障や腎不全、膀胱炎といった合併症も引き起こしやすく、症状が悪化すると昏睡状態に陥り命の危機に瀕するケースもあります。
そこで今回は、糖尿病の症状や原因、治療や予防方法などについてご説明します。


白内障のワンちゃん

糖尿病の症状

まずは、糖尿病の症状について。
そもそも糖尿病とは、血糖値をコントロールするホルモンの“インスリン”の分泌量が減ったり、分泌する細胞が減ってしまうことで血糖値(ブドウ糖濃度)が高い状態が続く病気のことです。
糖尿病の初期症状としては、水を飲む量やおしっこの量が増加(多飲多尿と言います)したり、たくさんご飯を食べても体重が減少したりするなどが挙げられます。
また、症状が進行するにつれて血液内でケトン体と呼ばれる有害物質が増加し、糖尿病性ケトアシドーシスという状態を引き起こし、食欲不振や下痢、嘔吐などの症状がでたり、さらに重症化すると昏睡状態となり、最悪の場合は死に至るケースもあります。

糖尿病の合併症

糖尿病が怖いのは、病気そのものの症状だけではなく、同時に合併症も引き起こす可能性があることです。
主な合併症の種類としては、下記の通りです。

  • ・白内障
  • ・感染症
  • ・腎臓病
  • ・糖尿病性ケトアシドーシス

それでは1つずつご説明していきます。

白内障

ワンちゃんの糖尿病で代表的な合併症の一つに白内障があります。
糖尿病になると体内での糖分に関わるメカニズムが障害を受け、眼のレンズの役割をする『水晶体』という場所に糖分とその代謝産物が蓄積し、また、代謝産物が水晶体のタンパクに作用することで白内障が進行していくとされています。
糖尿病による白内障は、ワンちゃんでは高率に発生し、急速に悪化していくことが分かっています。多くの場合この白内障の発生と進行を防ぐことは難しいのですが、なるべく早期に糖尿病を発見し、発症が分かった時点で可能な限り早めに治療をスタートして病状を安定させることで、この合併症を回避できる可能性があります。

感染症

糖尿病になると体の免疫力が低下し、細菌や真菌などのバクテリアが体に侵入しやすくなることで、高率に感染性の膀胱炎を起こすことがわかっています。感染性膀胱炎を起こすと、頻尿、血尿、尿の色調や尿臭の変化がみられることがあります。

腎臓病

人間の場合、糖尿病を患っている方の多くが腎臓も悪くなりやすく、人工透析が必要になる場合があります。それだけ糖尿病と腎臓病の関係性は密接で、発生頻度は低いとされていますが犬も人間と同じように糖尿病に起因する腎臓病を引き起こす可能性があります。
もし腎臓病を引き起こしてしまうと、尿と共に血液中の老廃物を排泄させる濾過機能が悪くなり、重症化すると尿毒症を引き起こします。

糖尿病性ケトアシドーシス

糖尿病の合併症において、一番怖いと言っても過言ではないのが糖尿病性ケトアシドーシスです。 糖尿病により脂肪分が分解され、ケトン体が増加し体内が酸性に変化。このケトン体が過剰に増加することで、食欲不振や下痢、嘔吐、脱水、昏睡といった、命に関わる症状が現れます。

体重計に乗るワンちゃん

糖尿病の原因・要因

犬の糖尿病は、一体何が原因・要因で発症するものなのでしょうか。
完全に解明されているわけではありませんが、現在、犬の糖尿病の主な原因や要因として考えられているのは、下記の通りです。

  • 自己の免疫による膵島[すいとう]の破壊
  • 原因不明の膵島の減少(特発性)
  • 急性/慢性膵炎[すいえん]を発症した影響
  • 遺伝的要因(先天性、若年性)
  • 雌犬で発情後や妊娠時の女性ホルモンの影響
  • 各種ホルモン疾患(クッシング症候群、卵巣疾患など)
  • 長期に渡るステロイドの投与

糖尿病の治療方法

気になる糖尿病の治療方法について解説します。
糖尿病の治療では、血糖値のコントロールをしていくことが必要で、その治療方法の選択肢は食事療法もありますが、多くの場合はインスリンを投与する治療がメインになります。また、ケトアシドーシスに陥り、下痢、脱水や食欲不振などの症状を併発している場合は、投薬や点滴治療といった対症療法を行います。

糖尿病の予防方法

糖尿病を予防するには、食事の偏りや運動不足などを気遣うことが大切となります。
例えば、脂肪や炭水化物などが多い食事は、肥満になりやすく血糖値が急に上昇して糖尿病を患いやすいです。
必ず、犬のライフステージに合わせた食事を心がけるようにしましょう。
また、メスの犬は避妊をすることで女性ホルモンの影響で発症する糖尿病リスクを減らせますが、避妊手術後に代謝が落ちて肥満気味になる子もいますので、常に体重管理が重要となります。
そのほか、一早く糖尿病の症状に気付くためには、定期的な健康診断を行うと良いでしょう。
合わせて飲水量、尿量や体重のチェックを行うことで、多飲多尿や肥満といった症状に早めに気づくことができます。

糖尿病になりやすい犬種

症状や治療方法などが分かったところで、実際に糖尿病を患いやすい犬種について解説していきます。
糖尿病を患いやすい主な犬種としては、下記の4犬種が挙げられます。

  • トイプードル
  • ヨークシャーテリア
  • ミニチュア・シュナウザー
  • ビションフリーゼ
    • ほかにも、避妊手術を受けていない雌のワンちゃんは糖尿病になりやすいとされています。

おすすめの療法食

愛犬が糖尿病になるのを防ぐため、もしくは糖尿病の進行を抑えるために、飼い主としてはなるべく愛犬のストレスにならない対策を練ってあげたいものですよね。投薬やインスリンの注射による治療を行うことも必要ですが、できれば美味しくて体に良い食事を与えたいという飼い主さんもいるかと思います。
そこでここからは、糖尿病を予防・治療するのにオススメの療法食をご紹介していきます。

先ずは、規則正しい食生活を心がけるのが基本中の基本となります。一日のうち、ある程度決まった時間に、決められた量の食事を食べ、間食は極力控えることが推奨されています。間食がどうしても必要な場合は、糖質の含有量が少ないもの(野菜やササミなど)を選ぶのがベターです。
治療中に推奨される主食のご飯は、糖尿病用に設計されている療法食が推奨されます。低脂肪で低カロリーのものが多く、体重のコントロールにも適しています。
(*)糖尿病で重度に痩せてしまったワンちゃんには上記の食事はかえって良くないので、インスリン療法で状態が安定し体重が標準量に戻るまでは、高カロリー低繊維食が必要なことがあるためどの食事を与えるか必ず獣医師に相談してください。

それでは、当院で現在お勧めしているお食事を1つご紹介いたします。

『ロイヤルカナン 糖コントロール ドライ 犬用』

大麦を炭水化物源として使用し、サイリウムなど複数の食物繊維を含有。糖尿病の犬の食後血糖の安定に配慮された療法食です。

詳しくはこちら⇒ https://www.royalcanin.com/jp/dogs/products/vet-products/diabetic-dog

ワンちゃんは味の好き嫌いや体質の相性がありますので、糖尿病用の療法食はその他にいくつかご用意があります。詳しくは当院スタッフへご相談ください。
また、補足でワンちゃんの運動についてご説明します。適度な運動をすると筋肉での血糖降下作用が活性化し、体を動かすことで全身の血流がよくなりインスリンの効果が安定するといった報告があります。ただし、急激な運動や、激しい運動は低血糖のリスクとなり逆効果になることがありますのでご注意ください。インスリンの投与方法や食事の与え方と同じように、毎日規則正しい運動を行うことが治療を成功させる秘訣となります。

まとめ

糖尿病は、症状が悪化すると命を脅かしたり、さまざまな合併症を併発したりする恐ろしい病気です。いくつか予防法を交えてご紹介しましたが、どれだけ飼い主さんが対策しても完璧に予防をすることは難しい病気だといえます。
そのため糖尿病の予防に心掛け、定期的に健康診断を行い早期発見に努める事をお勧めいたします。気になる事があればお気軽に当院スタッフへご相談ください。

監修:にじいろアニマルクリニック 院長 獣医師 石塚 洋介

参考文献:
・『犬と猫の内分泌疾患ハンドブック 第二版』松木直章 著
・『SMALL ANIMAL INTERNALMEDICINE THIRD EDITION』Richard W. Nelson et al.

診療時間:午前9:30-12:00/午後16:00-19:00(休診日:水曜日/日曜日午後/祝日)

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