ワンちゃんが下痢をしていても、病院へ行くべきか分からず様子を見ていたり、放っておいたりするケースがあります。
最初は症状が軽度でも、時間の経過と共に重症化したり難治性の下痢になってしまったり、中には急速に下痢症状が悪化する場合もあります。
そこで今回は、犬の下痢の原因、犬の下痢の種類(病院へ行った方が良いのか、自宅で対処できるかの判断基準)、病院での犬の下痢の治療内容や自宅で対処できる場合の対処法についてご説明します。

目次
1.犬の下痢の種類
犬は人よりもやや固めのコロコロのウンチが正常便とされています。勿論、人のように個体差があり、正常な時のウンチが少し軟らかめのワンちゃんもいれば、カチコチのかなり固めのウンチのワンちゃんもいます。下痢をしているかどうかは、ご自宅のワンちゃんのいつもの固さを基準にし、それよりも軟らかくなっているかどうかで判断するのがお勧めです。
(*)以下の解説中のウンチの固さは、一般的に正常便とされるコロコロの固さのウンチを基準にしています。

下痢の種類1・便の固さの違いによる分類
軟便:
軟便とは、通常のウンチの形状を保っているものの、水分量が多く持ち上げたり掴んだりすると形がすぐ崩れてしまう固さの便のことです。飼い主さんによっては軟便を下痢と認識していないことがありますので、今一度自宅のワンちゃんのいつものウンチの固さを確認してみると良いでしょう。
軟便が1日のうちに1〜2回見られただけでその後は続かず、その他の症状がなく食欲や元気がいつも通りであれば問題ないことが多いです。ただし、1日のうちに何度もみられる、毎日続く、その他の症状(嘔吐がみられる、元気がない、ぐったりしている、食欲が落ちている、食欲が全くないなど)があれば病院に行くことをお勧めします。
泥状便:
泥状便とは、軟便よりも水分量が多くウンチの形状を保てなく、まさに泥のような状態の便のことです。この段階になって初めて下痢と認識してご来院される飼い主さんが多いかと思います。泥状便が1日のうちに1回見られただけで、その後は続かず、その他症状がなく食欲元気がいつも通りであれば問題ないことが多いです。ただし、1日のうちに何度もみられる、毎日続く、その他の症状(嘔吐がみられる、元気がない、ぐったりしている、食欲が落ちている、食欲が全くないなど)がみられるようであれば病院に行くことをお勧めいたします。
水様便:
水様便とは、泥状便よりもさらに水分量が多く水のようにサラサラとした状態のことで、水下痢と呼ぶ方もいらっしゃいます。軟便や泥状便と比べて水様便は体内の水分や電解質が喪失しやすく重症化することが多いため、その他の症状がなくても病院に行くことを強くお勧めします。
その他の便の種類
粘液便:
大腸の粘膜から分泌されるゼリー状の粘液が混じった便です。下痢便に混じってみられることがありますが、正常な固さのウンチに粘液が付着しているだけのこともあります。主に大腸性下痢で見られます。
鮮血便・出血便:
大腸で出血した赤い血が付着した便です。ワンちゃんは下痢をした時に人と比べて大腸の粘膜が傷つきやすい傾向があり、出血を伴う便が比較的多く見られます。人では血便=大腸癌のイメージがあり、飼い主さんからよくお問い合わせがありますが、幸いワンちゃんは大腸癌自体の発生率が低く、また、血便が大腸癌の兆候になることが少ないです。主に大腸性下痢で見られます。
粘血便:
粘液便と鮮血便が混ざった便です。主に大腸性下痢で見られます。
下痢の種類2・下痢の原因となっている場所による分類
小腸性下痢:
小腸(十二指腸、空腸、回腸をまとめて“小腸”と呼びます。)が原因場所になっている下痢の総称です。通常は、体重の減少がみられたり、時折黒色便(メレナ)を伴います。便の回数は正常ですが、排便量が多くなることがあります。初期の頃は“しぶり”がみられません。
大腸性下痢:
大腸(盲腸、結腸、直腸をまとめて“大腸”と呼びます。)が原因場所になっている下痢の総称です。通常は、便の回数が多く出血便、粘液便や“しぶり”を伴うことがあります。体重の減少や排便量の増加はあまり起こりません。
下痢の種類3・時間の経過による下痢の分類
急性下痢:
下痢の症状がでて間もない、或いは短期間(通常数日間)だけ続く場合を急性下痢と言います。犬の急性の下痢は一般的な下痢の治療に良く反応し、短期間で症状の消失が多いです、しかし中には急激に悪化するケースもあるので注意は必要です。
慢性下痢:
数週間以上(主に3週間以上)続く下痢症状を慢性下痢と言います。一般的な下痢の治療に反応しにくく、難治性のことが多い下痢です。通常、様々な検査や治療を要します。
その他・症状や用語の補足
嘔吐(吐く):
消化管は口から肛門まで一続きの臓器のため、下痢の影響で上部の消化管に影響し嘔吐(吐き)を二次的に誘発することがよくあります。この場合はあくまで原因になっている下痢の治療をメインで考えて行く必要があります。小腸性下痢と大腸性下痢両方でみられます。
白色便:
主に脂肪分を多く含んで白っぽい色になった便のことです。膵臓のトラブルで脂肪の分解や吸収ができなくなった場合にみられます。
黒色便(メレナ):
主に小腸の粘膜から出血した赤い血が、時間の経過で酸化し変色してウンチに混ざり黒っぽい色になった便のことです。
しぶり:
排便時にウンチが出にくかったり、痛みを伴うためにイキんだり、ウンチがでた後もしばらくイキんで排便姿勢をとる症状で、主に大腸性下痢でみられることが多いです。
いきみ:
ウンチを出すためにお腹に力を入れて排便姿勢などをとる行動・仕草のことです。『しぶり』とは区別されます。
(*)上記のうち泥状便、水様便、粘血便などの場合、下痢に加えて嘔吐(吐き)があったり、食欲が落ちている、食欲がない、ぐったりしているなど他の症状もみられる場合はすぐに病院へご連絡ください。
立川駅周辺の方は、当院にじいろアニマルクリニックへお気軽にご相談ください。
にじいろアニマルクリニック
TEL:042-548-3655
午前 9:30-12:00 / 午後 16:00-19:00
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2.犬の下痢の原因
犬の下痢の原因は非常に多岐にわたりますが、ここでは代表的なものをご紹介します。
まず下痢の原因を探る際に、下痢の症状が出てからの時間経過で分類していくのが一般的で、『急性下痢』と『慢性下痢』に分けられます。
急性下痢
下痢の症状がでて間もなく短期間(通常数日間)だけ続く場合を急性下痢と言います。犬の急性の下痢は通常一般的な下痢の治療に良く反応し、短期間で症状が消失することが多いですが、中には急激に状態が悪化するケースもあるので注意は必要です。
《犬の急性下痢の主な原因の要約》
食物、生活環境の変化やイベント事(特に小型犬:チワワ、トイプードルやポメラニアンなどで)、異物の誤食、寄生虫、細菌、ウイルスなどが主にあげられます。
以下、犬の急性下痢で代表的なものを解説します。
食事が原因の犬の下痢
食事が原因の犬の下痢は、食べ過ぎ(摂取過多)、食事内容の急激な変更(特に子犬の場合)、食べたことがないおやつの摂取、過剰な水分摂取、劣化した食事の摂取、品質の悪い食事の摂取、食物アレルギー(食事アレルギー、食物不耐性)などが挙げられます。
生活環境の変化やイベント後の(特に子犬、小型犬や高齢犬)犬の下痢
トリミングに行ってきた、ドッグランに行ってきた、ペットホテルに預けていた、飼い主さんの生活リズムの変化による影響(出勤時間、散歩の時間やご飯を与える時間が変わった)、近隣で工事をしているなど、ワンちゃんの生活環境の変化やイベント事によって、特にストレスに弱い子犬、小型犬(特にチワワ、トイプードルやポメラニアンなど)および高齢犬などで下痢をしてしまうことがよくあります。
異物の誤食が原因の犬の下痢
異物の誤食が原因による犬の下痢は、特に何でも口にいれてしまう若いワンちゃんに多くみられますが、大人のワンちゃんでも日常的に物をカジって飲み込むクセがある場合には要注意です。何の前触れもない突発的な下痢や頻回の嘔吐を伴う場合に可能性が疑われます。
寄生虫が原因の犬の下痢
ワンちゃんはお腹の寄生虫による下痢を発症することがあります。特に子犬の時期は、母親犬、兄弟犬、ペットショップやブリーダーの飼育環境中から寄生虫が伝染している場合があります。回虫という白い紐状の虫(広義で線虫に分類されます)が一般的に多いです。その他には、鞭虫、ジアルジア、トリコモナス、コクシジウム、マンソン裂頭条虫、糞線虫などが見られます。
ウイルスが原因の犬の下痢
ウイルスが原因で犬が下痢をする場合があります。代表的なウイルスとしては、犬パルボウイルス、犬ジステンパーウイルス、犬アデノウイルス、犬コロナウイルス、犬ロタウイルスなどが挙げられます。特に初年度の混合ワクチン接種プログラムを完了していない、もしくは混合ワクチンを接種したことがない子犬の時期は、犬パルボウイルス、犬ジステンパーウイルスおよび犬アデノウイルスの感染による下痢は致死率も高いため要注意です。
その他の犬の急性下痢の主な原因
数週間以上(主に3週間以上)続く下痢症状を慢性下痢と言います。一般的な下痢の治療に反応しにくく、治療が長期化し難治性のこともある下痢です。通常、様々な検査や治療を要します。
慢性下痢
数週間以上(主に3週間以上)続く下痢症状を慢性下痢と言います。一般的な下痢の治療に反応しにくく、治療が長期化し難治性のこともある下痢です。通常、様々な検査や治療を要します。
《犬の慢性下痢の主な原因の要約》
犬の慢性の下痢の原因は多岐にわたりますが、主なものとしては寄生虫性腸炎、細菌性腸炎、タンパク漏出性腸疾患(炎症性腸疾患、腸リンパ管拡張症)、抗菌薬反応性腸症、腫瘍性腸疾患(胃腸管リンパ腫、腸の腺癌、大腸ポリープなど)、食物アレルギー(食事アレルギー・食物不耐性)、各種臓器の慢性疾患による二次性の下痢などが挙げられます。
以下、犬の慢性下痢で代表的なものを解説します。
炎症性腸疾患
胃、小腸および大腸の腸壁に炎症細胞(白血球のリンパ球、好中球、形質細胞など)が悪影響を及ぼすことで発症する慢性消化器障害を『炎症性腸疾患(略してIBDと言われます)』と言います。病気の原因は完全に解明されてはいませんが、遺伝的要因、食事環境、細菌、腸粘膜の性状、免疫システムの異常などが関与していると考えられています。病態の種類によっては、一部の犬種(ジャーマンシェパード、ソフトコーテッドウィートンテリア、バセンジー、ボクサー)で発症しやすい傾向が報告されています。
胃腸管リンパ腫
犬の胃腸管リンパ腫は、消化管に発生する腫瘍の中で最も多い腫瘍であるとされています。血液細胞の中のリンパ球が癌化したもので、中〜高齢期のワンちゃんで多く発生するとされていますが、時々若いワンちゃんでも発生することがあるため注意を要します。広義では蛋白漏出性腸症に分類され、下痢、嘔吐、食欲不振や体重減少などの一般的な消化管症状がみられることから、単純な下痢と勘違いされ、見落とされている場合もあります。
食物アレルギー(食事アレルギー、食物不耐性)
犬の食物アレルギーは、食物中の抗原に対して生体が免疫学的反応を起こす事で皮膚症状や消化器症状を呈する病気のことです。遺伝的な要因があると考えられています。皮膚症状としては、通年性の皮膚の痒みを特徴としており、症状の初期では皮膚が赤くなる(紅斑といいます)、皮膚の脱毛などがあり、慢性化すると皮膚の黒いシミ(色素沈着といいます)や、皮膚が硬くなりゴツゴツとしたシワが形成されたりします(苔癬化といいます)。また、外耳炎を発症したりもします。消化器症状としては、下痢、嘔吐、軟便、排便回数増加、腹鳴、および放屁などがみられます。犬の食物アレルギーは若い時期(1歳以下)から発症することが知られており、食物アレルギー発症のうち1/2〜1/3を占めるとされています。
各種臓器の慢性疾患による二次性の下痢
近年、人の医学領域では体内の臓器が各々密接した関わり合いを築いていることが解明されてきており、ワンちゃんの生体内も同様のことが起こっているという事が徐々にわかってきています(このような考え方を『臓器連関』といいます)。その為、肝臓、腎臓、心臓、および膵臓などの臓器で慢性疾患を患っているワンちゃんでは、その臓器の不調が胃と腸に影響を及ぼし、蠕動運動が低下するなどの理由で、嘔吐や下痢を引き起こすことがあります。
3.犬の下痢 動物病院で行われる検査内容
既に述べた通り、犬の下痢の原因は非常に多岐に渡り複雑な為、原因究明のための検査も多種多様です。問診、身体検査、糞便検査、血液検査、アレルギー検査、ウイルス検査、尿検査、単純レントゲン検査、造影レントゲン検査(バリウムなど)、エコー検査、細胞診検査、内視鏡検査(経内視鏡生検)、試験開腹手術、切除組織生検(病理検査)、CT検査、MRI検査、などがあります。
以下に犬の下痢症状の際、動物病院で行われる検査内容の詳細について解説いたします。
問診
厳密には検査ではありませんが、下痢の原因を特定するためには欠かせない非常に重要なプロセスです。飼い主さんは動物病院を受診した際、ワンちゃんの下痢の経過を可能な限り詳しく正確に問診票へ記入し、動物病院スタッフから直接問診をする際にも正確な情報を伝える事が必要です。事前に情報整理の為にも、下痢の経過をメモなどにまとめておくことをお勧めします。また、持病があったり、過去の病歴、普段食べているもの、ワクチンなどの予防関係の履歴、生活環境などの情報もあらかじめ整理しておくと良いかと思います。

身体検査(身体診察)
主に五感を駆使した診察を中心とした検査です。
視診、聴診、触診、打診などを行い、発熱していないか、多飲多尿はないか等を確認します。
糞便検査
犬の下痢で必ず行われる検査の一つです。従来の単純な下痢便の性状を分析したり、寄生虫を検出するものから、専門的な検査もあります。
(*)飼い主さんへのお願い
前述の通り、犬の下痢は糞便検査が非常に重要なので、排泄物は全て廃棄せず少量(小指の先程度の大きさで十分です)だけとっておき、なるべく来院直前にしたウンチを常温のまま、アルミホイルやラップなどの水分を吸収しないもので包み、さらにビニール袋などに入れて動物病院へ持参しましょう。
血液検査
犬の下痢の原因が血液や内臓の病気に関連しているかどうかを特定するための検査です。
アレルギー検査
犬の下痢の原因のうち主に食物アレルギー(食事アレルギー、食物不耐性)が疑われる際に行う血液検査の一つです。
除去食試験(⇔食物負荷試験)
犬の下痢で食物アレルギー(食事アレルギー、食物不耐性)が原因として疑われる、もしくはアレルギー検査結果で、ある食物の反応が強く出ている場合に行われる試験です。
尿検査
犬の下痢の際に尿検査が必要になることがあります。人の場合と同様に犬の尿検査は内臓関連、特に泌尿器系(腎臓、尿管、膀胱、尿道)に関連した病気を特定するために非常に有用な検査です。
(*)尿検査に用いる尿について
犬の尿検査に使用する尿は、なるべく無菌的に液体の状態で採取し、常温で保管し、可能な限り早めに動物病院にお持ちいただいて検査をすることが必要です。ペットシーツに排尿したもの、地面に排尿したもの、冷蔵庫で保管したもの、排尿してから時間がかなり経過してしまったものなどは、検査結果に影響するためご注意ください。自宅や散歩中での採尿が難しい場合は、病院内で直接採材することも可能なので動物病院へご相談ください。
レントゲン検査
犬の下痢の際にレントゲン検査が必要になることがあります。主に、異物摂取、胃拡張、胃捻転、腸閉塞/腸重積、腫瘍(胸部、腹部)、心臓の形態異常、肺疾患の有無(肺炎、気管支炎、肺の腫瘍、肺への転移象)、尿路結石の有無(腎臓結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石など)、消化管(胃、小腸、大腸)のガス貯留や異常な蛇行、リンパ節の腫れ(胸部、腹部、頭頸部)、胸水/腹水の貯留などの検出に有用です。
造影レントゲン検査(主にバリウム検査)
犬の下痢の際に、レントゲン検査やその他の検査で主に異物摂取などの可能性が高い場合、バリウムなどの造影剤を使用し行われるレントゲン検査です。
エコー検査(超音波検査)
エコー検査は超音波により生体内の断層像を撮影することで、体内の変化を検出していきます。超音波は体に全く無害で基本的に検査で麻酔を必要とせず、また、近年検査機器性能の向上で得られる情報の精度が非常に良くなっている為、治りにくい犬の難治性の下痢の際などには必須の検査となっています。
細胞診検査
触診、レントゲン検査やエコー検査で胸部や腹部またはそれ以外の部位で発見された腫瘤に対して、または下痢の原因となっている臓器に対して、小さい針を刺し細胞を採取し顕微鏡を用いてその細胞を分析する検査のことです。
胸水・腹水検査
犬が下痢をしている時に、胸水や腹水(胸の中、お腹の中に水分が溜まっている状態を指します)が貯留している場合があり、その溜まっている水を抜いてその成分を分析することで下痢の原因を特定していく方法です。
内視鏡検査(経内視鏡生検)
犬の小腸性下痢では上部消化管の胃、小腸(十二指腸)を検査します(人で一般的に胃カメラとも呼ばれる検査です)。犬の大腸性下痢では下部消化管の大腸(結腸、直腸、時に回盲部まで)を検査します。
試験開腹手術(試験開腹、切除組織生検)
試験開腹手術とは、犬の下痢の原因が各種検査で特定できない場合に、全身麻酔下で試験的に開腹手術を行い、直接お腹の中を調べる方法です。具体的に試験開腹が検討されるケースとしては、犬が異物を誤食している可能性が強く疑われるが完全に特定できない場合や、犬の胃腸の壁(粘膜〜筋層)の病気が強く疑われるが内視鏡生検など他の検査で特定できない場合、犬のお腹の中に腫瘤があり検査で腫瘤以外に下痢の原因となるものがない、或いは腫瘤が腫瘍の可能性が高くいずれにせよ外科切除が必要な場合などが挙げられます。
CT検査・MRI検査
犬の下痢の原因を特定するために、CT検査やMRI検査をすることが稀にあります。CT検査やMRI検査は体の中をくまなく調べるためには大変有用な検査ではありますが、通常ワンちゃんの場合は全身麻酔の検査になるのと、検査にかかる費用が高額になる事が多いため、犬の下痢の際にCT検査やMRI検査をする機会は少ないです。
4.犬の下痢 動物病院で行われる治療内容
犬の下痢の際に動物病院で行われる治療方法は、下痢の原因と同様に非常に多岐にわたります。軽度下痢(一過性の急性下痢)、重度下痢(急性下痢、慢性下痢)、寄生虫性下痢、細菌性下痢、ウイルス性下痢、炎症性腸疾患、胃腸管リンパ腫、食物アレルギーなどがあります。
犬の下痢の際に動物病院で行われる治療方法は、下痢の原因によって異なる為、下痢の原因の種類と同様に非常に多岐にわたります。以下に代表的な犬の下痢の治療方法を解説します。
犬の軽度下痢(一過性の急性下痢)の治療
犬の下痢はその多くが一過性の急性下痢で、通常は応急処置としての対症療法が行われます。具体的には、胃腸の調子を整える為に一般的な整腸剤を使用したり、下痢の成分と共に体外へ喪失してしまう水分や電解質を補う為の点滴(通常は応急処置で行われる簡易的な皮下点滴)を行なったりします。
犬の重症下痢(急性下痢、慢性下痢)の治療
犬の重症化した下痢の場合は、入院治療が必要なことがあります。犬の重症な下痢の際に入院治療をする最も大きな利点としては、血液検査、エコー検査やレントゲン検査などの検査を治療ごとに必要なタイミングでこまめにチェックができ、その治療の結果・反応をみながらその時々の犬の容態によって最適な治療プランを立てていくことが可能なことです。
犬の寄生虫性下痢の治療
寄生虫が原因の犬の下痢では、駆虫薬が使用されます。寄生虫の種類により使用する駆虫薬は様々ですが、一般的には錠剤、粉薬またはスポットタイプ(液剤で皮膚に塗布するタイプ)のものもあります。また、下痢症状が酷い場合は前述の対症療法を併用することがよくあります。
犬の細菌性下痢の治療
細菌が原因の犬の下痢の治療は、通常抗生剤を使用します。使用する抗生剤の種類は、原因になっている細菌の種類によって様々ですが、通常は抗生剤と共に前述の対症療法を併用することが多いです。
犬のウイルス性下痢の治療
ウイルスが原因の犬の下痢の治療は、一般的には対症療法がメインとなります。というのも、犬の下痢の原因になるウイルスそのものに対して特異的に効果を示す薬がないため、基本的には対症療法で犬の体力の回復を促し、自身の免疫力でウイルスを排除させていく必要があるからです。
犬の炎症性腸疾患の治療
犬の炎症性腸疾患は、胃、小腸および大腸の腸壁に自己が持つ免疫系細胞である炎症細胞(白血球のリンパ球、好中球、形質細胞など)が悪影響を及ぼすことで発症する慢性消化器障害で、食欲の低下、元気の消失、体重減少、嘔吐や下痢を起こします。炎症性腸疾患では、これらの症状が出ないようにする、或いは緩和するのが治療の目標となります。
犬の胃腸管リンパ腫の治療
犬の胃腸管リンパ腫は胃腸管の壁の中で血液細胞のリンパ球が癌化したものを指します。治療方法は基本的に抗がん剤を使用した内科療法が中心となります。
また、病変が限局的もしくは通過障害を起こしている場合は、病変部の胃腸を全身麻酔下で切除することもあります。内科療法のメインは抗がん剤となります。
犬の食物アレルギーの治療
犬の食物アレルギーとは食物中の抗原に対して生体が免疫学的反応を起こす事で皮膚症状や消化器症状を呈する病気のことです。
犬の食物アレルギーによる消化器症状(下痢、嘔吐、元気消失や食欲低下)に対する治療;犬の食物アレルギーによる消化器症状が軽度の場合は、既述の一過性の急性下痢嘔吐の治療となります。
5.犬の下痢はどれくらいで治るのか
犬の下痢はその原因によって、治療期間は様々です。前述の代表的な下痢の原因において、治療がどのくらい必要かを解説いたします。以下記載の治療期間は、ワンちゃんの状態や原因によってその都度異なる為、あくまで目安の期間となりますのでご了承下さい。

犬の急性下痢の場合
犬の比較的軽度の急性下痢の場合は、比較的短期間の数日〜1、2週間で完治することがほとんどです。
犬の重症の急性下痢の場合は、入院治療が必要になるかで治るまでの期間は大きく変わりますが、目安として2週間〜数ヶ月治療を要することがあります。
犬の慢性下痢の場合
犬の重症の慢性下痢の場合は、数ヶ月〜数年、あるいは生涯治療を続ける場合もあります。
犬の寄生虫性下痢や細菌性下痢の場合は、原因となっている寄生虫の駆虫や細菌のコントロールや除菌が上手くいけば比較的短期間の数日〜1、2週間程で良化することがありますが、時折薬剤耐性の寄生虫や細菌などの問題により駆虫、細菌のコントロールや除菌がスムーズにいかない場合があり長期間治療を要することもあります。
犬のウイルス性の下痢の場合
下痢の原因ウイルスや犬の状態によってその重症度が異なります。犬コロナウイルス、犬ロタウイルスが原因の犬のウイルス性下痢は比較的軽症が多く数日〜1、2週間で良化することが多いですが、仔犬の時期は重症化し2週間〜数ヶ月治療を要することもあります。犬パルボウイルスや犬ジステンパーウイルスなどが原因の犬のウイルス性下痢は、特に仔犬で重症化することが多く治療期間も長期間要する場合があります。治療期間の目安は犬の状態、犬の月齢やその他の合併症の有無によりますが、目安として2週間〜数ヶ月かかることがあり、最悪亡くなってしまう場合もあります。
犬の炎症性腸疾患や犬の食物アレルギーによる下痢の場合
症状が軽度のものは寛解する場合もありますが、通常治療は長期間要することが多く生涯治療が必要なこともあります。犬の炎症性腸疾患ではその治療にステロイド系のお薬がメインで使用されるため、長期投与の場合は薬の副作用のリスクを考慮する必要があります。そのため使用する薬剤の量は最小限に調整したり、ステロイド系のお薬でも副作用のリスクが少ない新しいタイプの薬を使用したり、免疫抑制剤やその他の薬を併用することでステロイド系の薬の使用量を減らしたりします。食事療法が中心の犬の食物アレルギーに対して使用される処方食は、可能な限り使い続けるのが推奨されます。
犬の胃腸管リンパ腫による下痢の場合
治療は通常長期間を要します。胃腸管リンパ腫は残念ながら完治することは難しい病気で、無治療の場合や進行が早く悪性度が高いタイプですと、半月〜2ヶ月位の間に亡くなってしまうケースもあります。使用する抗がん剤の種類やその使用方法などにより期間は異なりますが、通常は数ヶ月〜再発するまで使用されることもあります。また、犬の胃腸管リンパ腫は治療を行った場合の余命が半年〜長くて2、3年ほどとされています。
6.犬の下痢で飼い主さんが自宅で対処できる場合の対処法
犬が下痢をした時に飼い主さんが自宅できる対処法がいくつかありますのでご紹介します。
犬が下痢をした際の普段の生活について
犬が下痢をしている場合は、なるべく自宅では安静にしておくことが必要です。ワンちゃんの状態や性格にもよりますが激しい運動やドッグランに行くのは控え、散歩も歩く距離は少なめor 最小限にすると良いかと思います。トリミングやシャンプーなどのお手入れも極力下痢が落ち着くまで延期することをお勧めいたします。
犬が下痢をした場合の食事や飲み水について
犬の下痢が軽度で嘔吐がみられない場合は、食事や飲み水の量を通常より制限し(半分〜1/10量)、なるべく少量頻回に与えるのが推奨されます。下痢が落ち着いているようであれば数日かけて(3日前後)通常量に戻していくと良いでしょう。
重症な下痢や嘔吐が頻回に見られる場合は基本的に動物病院を受診することをお勧めしますが、受診が難しい場合の対処方法としては、一時的に食事や飲み水をストップし、半日くらい様子をみて症状が落ち着いているようであればごく少量の食事と飲み水を与え、その後も下痢や嘔吐がみられなければ少量頻回与えていくとよいです。
(*)従来は犬の下痢や嘔吐の症状に対して、絶食絶水の対応をすることが多かったですが、現在は胃腸がある程度機能している場合は食事や飲水の制限はかえって良くないことが分かってきています。闇雲な絶食絶水は推奨されていませんのでご注意ください。判断に迷う場合は必ず動物病院に相談するようにしましょう。
犬の下痢の原因が異物摂取や誤食の場合
異物摂取や誤食によって犬が下痢している可能性が高い場合、誤食した可能性がある食べ物や異物の残りが余っていれば持参すると良いです。実物を持参する目的として、検査中にレントゲンやエコーで異物が実際どのように画像に映し出されるかを調べることで診断につながることがあるためです。食べ物であれば成分表示が記入されている袋や用紙を一緒にお持ちするとベターかと思います。
犬が下痢をしている時の市販の整腸剤やサプリメントの使用について
犬が下痢をしている時に、市販の整腸剤(乳酸菌製剤など)やサプリメントの使用について動物病院に問い合わせが時々あります。市販の製品やサプリメントは品質が一定でなかったり効果が非常に弱いので、使用することを動物病院としてはお勧めしませんが、下痢症状が極軽度の短期間の軟便で、過去に難治性下痢での既往歴がない場合に限り、使用してみるのはありなのかなと思います。ただし、下痢症状が治らない、ワンちゃんの状態が悪くなるようなら早めに動物病院へご相談しましょう。
まとめ
まずは犬の下痢の種類や原因を理解し、適切な対応を心がけましょう。
ここまでに記載した犬の下痢の種類に当てはまらない、もしくは判断ができない場合は必ず動物病院にご相談ください。
冒頭でお伝えした通り、犬の下痢の原因は非常に多岐に渡ります。その為、犬の下痢の原因を特定するために様々な検査が必要となります。その過程で下痢をした便を調べる事も重要なので、排泄物は全て捨ててしまったりせず一部を検査用に確保しておいて受診の際に必ずご持参ください。
犬の下痢は原因が多岐に渡る為、その治療方法や治療期間も様々です。犬の下痢の症状が短期間で軽い場合は自宅で飼い主さんができる対処方法もいくつかありますが、難治性の下痢や重症化する下痢の場合は根気がいる治療が必要となることもありますので、たかが下痢と油断せずに注意深くワンちゃんの様子や状態を観察しながら適切な対応を心掛け、状態が悪そうであれば迷わず動物病院のスタッフに相談しましょう。
監修:にじいろアニマルクリニック 院長 獣医師 石塚 洋介
参考文献:
・SMALL ANIMAL INTERNAL MEDICINE 3rd ed; Interzoo.
・犬と猫の治療ガイド2015; interzoo.