更新日:2023/05/06
動物病院で行われる治療
犬の下痢の際に動物病院で行われる治療方法は、下痢の原因によって異なる為、下痢の原因の種類と同様に非常に多岐にわたります。以下に代表的な犬の下痢の治療方法を解説します。
更新日:2023/05/06
犬の下痢の際に動物病院で行われる治療方法は、下痢の原因によって異なる為、下痢の原因の種類と同様に非常に多岐にわたります。以下に代表的な犬の下痢の治療方法を解説します。
犬の下痢はその多くが一過性の急性下痢で、通常は応急処置としての対症療法が行われます。具体的には、胃腸の調子を整える為に一般的な整腸剤を使用したり、下痢の成分と共に体外へ喪失してしまう水分や電解質を補う為の点滴(通常は応急処置で行われる簡易的な皮下点滴)を行なったりします。
犬の重症化した下痢の場合は、入院治療が必要なことがあります。犬の重症な下痢の際に入院治療をする最も大きな利点としては、血液検査、エコー検査やレントゲン検査などの検査を治療ごとに必要なタイミングでこまめにチェックができ、その治療の結果・反応をみながらその時々の犬の容態によって最適な治療プランを立てていくことが可能なことです。
入院下での治療は、静脈内点滴(血管に管を設置しゆっくり点滴を流す方法)を行なったり、様々な注射薬を使用したり(静脈内注射:血管に設置した管から直接注射する方法、皮下注射:皮下組織に直接薬を注射する方法)、高栄養点滴をしたり(一日の栄養分を直接静脈内へ点滴していく方法で、外来治療では行うことはできません)、給餌を補助したり、食欲が全くない場合はチューブフィーディング(経鼻カテーテル:鼻から細い管をいれて胃までフードを直接流す方法、食道チューブ:首のあたりに穴を作り食道に太いチューブを通して胃にフードを直接流す方法、胃瘻チューブ:お腹に穴を作り胃に直接太いチューブを通してフードを直接流す方法)を行なったりします。
入院治療にはデメリットもあります。犬の性格によっては(緊張しやすい、環境の変化に弱い、ストレスに弱いなど)入院治療によって食欲元気が低下したり、排泄を我慢することで便秘、膀胱炎や尿毒症などの二次的な合併症を起こすことがあります。また、外来と比べて入院治療は高額になる場合が多いです。更には、犬の下痢で命が切迫しているほど重体の場合には、最悪なケースでは入院中にワンちゃんが亡くなり、ご家族がワンちゃんとの最期の時間を過ごすことが叶わない、というリスクもあります。医学的に言えば入院治療の方が圧倒的に治療レベルは高いですが、動物医療では通院治療の方が結果的にベターなケースも多々あります。ワンちゃんの性格、病気状況、飼い主さんの思想感等々を考慮し入院治療をすべきかどうかを判断していきます。
寄生虫が原因の犬の下痢では、駆虫薬が使用されます。寄生虫の種類により使用する駆虫薬は様々ですが、一般的には錠剤、粉薬またはスポットタイプ(液剤で皮膚に塗布するタイプ)のものもあります。また、下痢症状が酷い場合は前述の対症療法を併用することがよくあります。
細菌が原因の犬の下痢の治療は、通常抗生剤を使用します。使用する抗生剤の種類は、原因になっている細菌の種類によって様々ですが、通常は抗生剤と共に前述の対症療法を併用することが多いです。
やや例外的ですが、犬の消化器症状の原因菌として、人と同じように胃のピロリ菌が関与している場合があります。犬の胃のピロリ菌感染は、人のような胃癌のリスクが上昇するというようなエビデンスはありませんが、胃腸症状に関与していることが知られています。治療方法は人と同様で複数の抗生剤を組み合わせ、2〜3週間内服をし除菌を行います。
ウイルスが原因の犬の下痢の治療は、一般的には対症療法がメインとなります。というのも、犬の下痢の原因になるウイルスそのものに大して特異的に効果を示す薬がない為、基本的には対症療法で犬の体力の回復を促し、自身の免疫力でウイルスを排除させていく必要があるからです。
犬のウイルス性下痢(特に犬パルボウイルス感染症、犬ジステンパーウイルス感染症など)は、特に免疫システムがまだ未熟な仔犬で原因ウイルスの種類によっては重症化し命に関わることがあり、時に入院治療が必要になることがあります。
犬の炎症性腸疾患は、胃、小腸および大腸の腸壁に自己が持つ免疫系細胞である炎症細胞(白血球のリンパ球、好中球、形質細胞など)が悪影響を及ぼすことで発症する慢性消化器障害で、食欲の低下、元気の消失、体重減少、嘔吐や下痢を起こします。炎症性腸疾患では、これらの症状が出ないようにする、或いは緩和するのが治療の目標となります。具体的な治療としては、食事の変更(食事を消化性が良くまた炎症反応がでにくい処方食に切り替える)、抗菌薬(タイロシン、オキシテトラサイクリンやメトロニダゾールなど)を使用して腸内細菌を是正する、ステロイド系薬剤の使用(プレドニゾロンやブテソニド)、免疫抑制剤の使用(アザチオプリン、クロラムブシルやシクロスポリンなど)、その他としてはビタミン系の薬、整腸剤やサプリメントなどを使用する場合があります。
犬の胃腸管リンパ腫は胃腸管の壁の中で血液細胞のリンパ球が癌化したものを指します。治療方法は基本的に抗がん剤を使用した内科療法が中心となります。
また、病変が限局的もしくは通過障害を起こしている場合は、病変部の胃腸を全身麻酔下で切除することもあります。内科療法のメインは抗がん剤となります。抗がん剤は数種類の薬を組み合わせて使用する多剤併用療法が効果が高く推奨されています。胃腸管リンパ腫の抗がん剤治療の際は、他の種類のリンパ腫よりも消化器関連の副作用がでやすい(下痢、嘔吐、便秘、腹痛や胃腸アトニーなど)ため注意が必要です。
犬の胃腸管リンパ腫で抗がん剤以外の治療として、抗がん剤による副作用やリンパ腫の悪影響に対する治療が検討されます。下痢や嘔吐に対しては整腸剤や点滴、貧血に対しては輸血や造血剤の投与、血小板減少症に対しては血小板輸血、白血球減少症に対しては白血球増加因子の注射薬投与、電解質不均衡(高カリウム血症、高カルシウム血症など)に対しては点滴や内服、腫瘍溶解症候群(特に初回抗がん剤投与の際に起こることがある、腫瘍細胞が大量に一気に死滅し細胞内の成分が体内で放出されることによって起こる有害事象のこと)に対する輸液や投薬、DIC=播種性血管内凝固(血が固まるためのシステムが)に対する全血輸血、血小板輸血、血漿輸血、輸液、抗凝固剤投与など
犬の食物アレルギーとは食物中の抗原に対して生体が免疫学的反応を起こす事で皮膚症状や消化器症状を呈する病気のことです。
犬の食物アレルギーによる消化器症状(下痢、嘔吐、元気消失や食欲低下)に対する治療;犬の食物アレルギーによる消化器症状が軽度の場合は、既述の一過性の急性下痢嘔吐の治療となります。主に整腸剤(下痢止め、吐き気止めなど)や点滴による治療を行います。軽度でも慢性化(長期化)している場合や、急性および慢性の中等度〜重度の消化器症状が続く場合は、既述の炎症性腸疾患と似た治療を行います。具体的には除去食試験(新奇タンパク食、加水分解食やアミノ酸食および手作り食などを使用します。)、ステロイド系薬剤による投薬治療、免疫抑制剤の使用、抗菌薬を使用での腸内細菌是正、およびビタミン系薬剤の併用などがあります。
犬の食物アレルギーによる皮膚症状に対する治療;犬の食物アレルギーによる皮膚症状では、食事療法が中心となります。除去食試験で新奇タンパク食、加水分解食やアミノ酸食および手作り食などを使用します。アレルギー検査によってアレルゲンの可能性のある食材を除去するのもありですが、犬の場合はアレルギー検査の精度が高くないため、結果と実際の症状がリンクしない場合がありますので注意が必要です。また、細菌、真菌や寄生虫が皮膚症状の悪化要因になっている場合は各感染症に対して内服薬、外用薬や注射薬で治療します。痒みが強い場合は、症状が局所で限局的で狭い範囲なら外用薬を使用し、広範囲であれば内服と医療用薬用シャンプーを使用した薬浴などを行います。スキンケアとして、保湿剤の併用、皮膚用サプリメントの併用や生活環境の是正など行うことも推奨されています。
監修:にじいろアニマルクリニック 院長 獣医師 石塚 洋介
参考文献:
・SMALL ANIMAL INTERNAL MEDICINE 3rd ed; Interzoo.
・犬と猫の治療ガイド2015; interzoo.