狂犬病ワクチンの副作用

更新日:2021/01/22

狂犬病ワクチン 副作用の種類と対応方法、予防方法

ワンちゃんを飼う際は、狂犬病予防法によりワクチン接種が義務化されています。しかし狂犬病ワクチンの予防接種後、稀に副作用が出ることがあり、症状も様々です。
そこで今回は、狂犬病ワクチン接種後における副作用の種類と対応方法、また副作用をできるだけ防ぐ方法についてご説明します。


症状と対処法

副作用の代表的な症状としては、嘔吐、下痢、発熱や痛み、呼吸が早くなる・できない、痙攣(発作)などがあります。症状に合わせて適切な対応が必要です。

嘔吐

症状

狂犬病ワクチン接種後に嘔吐が見られることがあります。タイミングによって未消化の固形状や消化されたペースト状のフード、液体状の胃液・胆汁液(やや黄色の液体)などを吐き出します。

対処方法

吐く回数が1回〜2回程度で、それ以外に症状もなく元気で食欲に変化もなければ経過観察で大丈夫です。
吐く回数が多かったり、吐いた後にぐったりしていたり、下痢を伴ったり、元気や食欲がない場合はすぐに病院へご相談ください。また、回数が多い嘔吐や下痢 の場合、ご来院するまでの間は一旦お水とお食事を与えないようにお願いします(吐きや下痢をした後に喉が渇いたり、お腹が空くことで、水を飲んだり、お食 事を食べて再び吐きや下痢を招いて悪循環になってしまうことがあるためです)。

下痢

症状

狂犬病ワクチン接種後に下痢が見られることがあります。因みに、ワンちゃんニャンちゃんのウンチはコロコロした固いのが正常便となります。
(この機会にいつものウンチの固さや回数をチェックしておきましょう。)
下痢をしている時の便の状態は、①形はあるけど持つと崩れる軟便、②ドロドロとした泥のような泥状便、そして③水のようなサラサラとした水様便と様々で す。下痢に伴いウンチの回数が増えたり、ゼリー状の粘液や血が混じったり、ウンチの色が変化したり(黒色などに)、ウンチの総量が増えたりと一言に下痢と いってもその状態や症状は様々です。
下痢の症状によっては元気食欲が低下する、嘔吐が見られる、ぐったりする、呼吸が早くなったり、お腹の音が頻繁に鳴ることもあります。

対処方法

下痢が1回〜2回程度で止まり、それ以外に症状もなく元気で食欲に変化もなければ経過観察で大丈夫です。
下痢が止まらず何度もしている、ぐったりしている、嘔吐を伴っている、元気や食欲が落ちている場合はすぐに病院へご相談ください。また、回数多く下痢や嘔吐を繰り返している時は、ご来院するまでの間、一旦お水とお食事を与えないようにお願いします。
(吐きや下痢をした後に喉が渇いたり、お腹が空くことで、水を飲んだり、お食事を食べて再び吐きや下痢を招いて悪循環になってしまうことがあるためです)。


発熱や痛み

症状

狂犬病ワクチンに限らずワクチンは接種した個体の免疫機構に作用し、病原体に対する抗体産生を促したり、体の中の免疫細胞の活性を高めてその病気にかからないようにしてくれます。
現在、小動物医療の中で使用されているワクチンは、ウイルスや細菌を無毒化・弱毒化したものを体に接種するものが主流です。そのため、接種したワクチンに対して免疫機構が反応し、体内では炎症反応というものが起こります。その過程で発熱することがあります。
注射した部位だけの局所反応の場合は、虫に刺された後のような注射部位の熱感(や痒み、痛み)が起こります。ワンチャンやニャンちゃんが注射した部位を気にして舐めたり掻いたり、注射した場所を触ると痛がったり、時折、接種場所が足の近くで反応が強いとビッコを引いたり(跛行といいます)、足を完全に挙げっぱなしになります。
注射によって全身性に体内の炎症反応が誘発されることにより、発熱してしまうことがあります。熱が出るとその程度によって元気食欲がなくなる、だるそうにする、ぐったりする、体が小刻みに震える、呼吸が早くなる、吐きや下痢を伴うこともあります。

対処方法

軽度の熱感、軽度の痛みや軽度の発熱だけで、その他に症状が無ければ経過観察で大丈夫です。
もし、熱感、痛みや発熱と共に元気食欲が低下する、吐きや下痢がみられる、グッタリして動かない、注射部位の痛みが強い、呼吸が早い、痙攣(発作)がみられる、小刻みに震えているなどその他の症状を伴う場合は病院へご連絡ご来院ください。
また、病院に来ると症状を見せない場合もあるため、気になる症状があれば携帯などで動画を撮影してお持ちください。


呼吸が早くなる・呼吸ができない(呼吸困難)

症状

狂犬病ワクチン接種後に呼吸が早くなったり、呼吸困難に陥ることがあります。呼吸異常の原因としては、接種部位の痛み、下痢などによる腹痛、体の違和感、ワクチン後の強い炎症反応(アナフィラキシー反応といいます)により気道が腫れ物理的に塞がってしまうことが稀に起こり呼吸困難になることもあります。

対処方法

呼吸がやや早くなる程度で、それ以外に症状が見られない場合は経過観察で大丈夫です。
呼吸が明らかに早くなっている、呼吸が早くなる以外に痛み、下痢、嘔吐、呼吸する音の変化(通常あまり聞かない呼吸音や笛のなるような呼吸音)が見られるようならご来院ください。特に舌の色が変化する(白色や紫色)、呼吸困難が見られたら緊急を要するため、迷わず直ぐに病院へご連絡ご来院ください。


痙攣(発作)・震え

症状

狂犬病ワクチン接種後に痙攣(発作)や震えが見られることがあります。
痙攣(発作)は、主に脳神経系の異常反応により動物の意思とは無関係に体が不規則に動くことを指し、呼びかけには反応せず完全に動物の意識が消失していることもあります。
全身の筋肉を硬直させながら歯を食いしばるようにし、全身が突っ張ったように手足を伸ばしきる状態が続く、四肢を曲げ手足をガクガクと震わせながら激しく動かす、あるいはその両方を伴う痙攣(発作)が代表的です。
症状は通常数秒〜2、3分でおさまり、その後は発作後症状(意識が朦朧としていたり、異常に水を飲んだり食事を食べたり、徘徊様行動をとるなど)を示す場合もあります。狂犬病ワクチン接種後の痙攣(発作)は、ワクチンによる体内での炎症反応が脳神経系などに影響することで起こりますが、通常は『てんかん』 などの持病があるワンちゃんニャンちゃんで発生しやすいとされています。
震えは、体や手足の一部を小刻みに振るわせる動作を指し、動物の意識は有り呼びかけには反応することができます。立ち尽くしたまま動かず震えている場合もあれば、うずくまったり丸まったりして震えていることもあります。
(*)多くの方が、『震え』の症状を『痙攣(発作)』と勘違いしていることが多いのでご注意ください。可能であれば、症状が出ている時に携帯電話などで動画を撮影し病院へ持参していただけると、症状の判別に役立つことがございますのでご協力をお願いいたします。

対処方法

痙攣(発作)の場合、初めて見る方は大変驚かれると思いますが、症状の多くは数秒〜2、3分でおさまることが多いので、まずは飼い主さんが心を落ち着かせ、痙攣(発作)を起こしている動物の周りにある物を片付けて、接触や転倒による怪我の予防をします。
タオルやクッションなど柔らかい物で周囲をガードしてあげると更に安全かと思います。
余裕があれば携帯電話などで症状の様子を動画で撮影しておくことをお勧めします。痙攣(発作)が落ち着いたら、症状が続いていた時間を確認し、発作後症状が出ているようであれば症状の様子も動画撮影やメモしておきましょう。
痙攣(発作)が落ち着いた段階で、病院へご連絡、ご来院ください。
(*)通常数秒〜2、3分でおちつく痙攣(発作)がおさまることなくずっと続くことがごく稀にあります(重積発作といいます)。重積発作は命に関わる非常に危険な発作のため、痙攣(発作)が5分を過ぎても止まらない場合は、痙攣(発作)中でもいいので直ぐに病院へお連れください。
 震えの場合、通常緊急性は低いことが多いので経過観察で大丈夫です。震え以外に、食欲消失、下痢、嘔吐、グッタリしている、発熱・痛みや呼吸困難などその他の症状が見られるようでしたら病院へご連絡、ご来院ください。


このような症状が出た場合は、病院にご連絡ください。
特に呼吸困難、痙攣(発作)などは緊急性を要することが多いため直ぐにご連絡、ご来院ください。

副作用をできるだけ抑え、防ぐために

  • 以前ワクチン接種で副作用が出た事がある場合、事前にご連絡ください。また、過去に接種したワクチンの種類や名前がわかれば、合わせてお申し出ください。
  • 接種前から体調管理をおこない、体調を整えてから接種を受けてください。ワクチン接種直前の旅行、トリミングやシャンプーなど体に負担がかかりそうな事は控えるようにお願いいたします。
  • 予防接種後は安静にして、30分は必ず様子を見るようにお願いいたします(ワクチン後の反応で一番重篤な、アナフィラキシー反応は通常30分以内 に発生するためです)。ワクチン接種後の散歩は普段よりかなり少なめにしていただき(外でしか排泄しない場合は、お散歩で排泄を済ませたらすぐに帰るなど 最低限にする)、シャンプーやトリミングは1週間控えるようにご注意ください。
  • 重い症状になりやすいアナフィラキシー反応は、接種直後に発生することが多いです。翌日に発生することはほとんどないので、ワクチン接種直後の様子をしっかりみてあげてください。

狂犬病ワクチンの副作用発現率と発生までの時間

狂犬病ワクチンの副作用発現率は約0.0006%で、他の犬用混合ワクチンと比較すると副作用発生率は低く安全なワクチンとされています。

副作用が出やすい年齢としては高齢なワンちゃんや、1歳未満の若いワンちゃんに多くみられる傾向があり、特に重篤な副作用は6時間以内に発生しやすいとされているため、狂犬病ワクチンを接種した当日は注意深くワンちゃんを観察してあげることが重要です。

(参考文献:日本獣医師会雑誌61巻7号より)

狂犬病は日本で発生が無いのに、毎年ワクチン接種をしないといけないのでしょうか。

以下二つの観点から狂犬病ワクチンは接種の必要があります。

1.法律で義務付けられているため。 狂犬病予防法で飼い主さんには、生後91日以上のワンちゃんを飼い始めてから30日以内に飼い主の登録の届出、および1年に1回の狂犬病ワクチンの接種が義務付けられています。違反者には20万以下の罰金が科されます。近年では狂犬病ワクチン未接種犬が咬傷事故を起こし、咬傷犬の飼い主が逮捕される事例が起こっています。

2.狂犬病のまん延を防ぐため。 狂犬病は全ての哺乳類に感染し、人は主に犬を介して感染します。感染後発症すると、ほぼ100%死に至るという非常に恐ろしいウイルス感染症で、今でも世界で年間約55,000人が狂犬病に罹患し命を落としています。幸いにも日本は予防医療が浸透し、1956年以降狂犬病の発生がない清浄国の一つです。実はこの清浄国が非常に少なく、日本以外で現在英国の一部、ニュージーランド、オーストラリア、北欧諸国の一部に限られているのが実情です。 そういった中、昨今のグローバル化で人や物の行き来は以前よりも活発になっており、特に港のある街では寄港した外国船籍の船内から狂犬病にかかった犬やその他の哺乳動物が日本にウイルスをもたらすリスクが危惧されています。

まとめ

どんなに適切に準備・行動をしていても、狂犬病ワクチン接種後に副作用が出てしまう事があります。
そのような時は慌てず、上記の事を踏まえて落ち着いて病院へご連絡、ご来院ください。



監修:にじいろアニマルクリニック 院長 獣医師 石塚 洋介

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